社長は少しため息交じりで話しはじめた。
「今回は専務の横暴なやり方に問題があったことは認めましょう。
そこで、穏便に済ませてもらえないだろうか?」
さすが、社長ともなると自らの非は認める。
透もこれくらいあれば問題なく会社を辞めることが出来るし、その後も、顔を会わせずに済むのに。
そうなれば、透は助かるでしょう?
私と会うことは二度となくなるのだから。
「私は何度も辞表を出していますが受理されません。」
「当然だ。理由もなく辞表を出されたのでは会社は困る。」
また、透はそんなセリフで私をここへ留めておくつもり?
何の為に?
私には透が考えていることが分からない。
「退職は社員の権利。その権利を雇用主が奪うことは出来ない。
透、それはお前も知っていることだろう。
ただね、加奈子さん、今回はそれだけじゃないから困っているんだよ。」
社長は苦笑して私の顔を見た。
それはどういう意味で受け取っていいのか私には判断つきかねる。
それに、透は急に神妙な顔をして黙り込んだ。
その透の態度にも私は違和感を覚えてしまう。
「あの、壊した備品は弁償します。責任とって会社を辞めるつもりでいます。」
今の私に言えるのはこれだけ。
透が相手とは言え、仮にも雇われている会社の専務だ。
それに、今、私が話している相手は社長なのだ。
それを踏まえて言葉を選んで話さなければならない。
社長の言葉通り、今は、穏便に済ませるときなのだ。



