大きな窓の前に大きな社長のデスクがある。
いかにも大会社の社長の家具調デスクと大きなリクライニングチェアーだ。
その椅子に腰かけていた社長が立ち上がりデスクの前へとやって来た。
透はデスクの前に立っていたが私が部屋へ入ると少し窓際へと下がった。
私の顔を見ていたくないのだろうか?
透は私の顔を見ると少し目を背けた。
「田中加奈子君だね?」
「はい」
社長は思ったより優しい声で話しかけてきた。
その声に緊張が少しは収まって来た。
「まあ、座りなさい。」
そう言われて私は軽く会釈をしてから応接セットの長椅子の方へと腰かけた。
テーブルを挟んだ向かい側の一人掛けソファーに社長が座りその隣に透は立ったまま控えていた。
「透、お前も掛けなさい。」
社長にそう言われ透は渋りながらソファーに腰かけた。
そして何をイラついているのか手を組むとまた私から目を逸らした。
透は落ち着かない様子だった。
そんな透を見て逆に私の方が心が落ち着いてしまった。
「大体の話は透から聴きましたよ。 それにしても、こんな始末書を社長宛に送ったのは君が初めてだよ。」
社長は笑いながらそう言った。
その笑顔が嫌味でもなんでもなくただ滑稽なことへの笑いにとれた。
「お褒め頂きありがとうございます」
そんな社長に対し、ここへ呼び出されたことと透に対して少し嫌味の返事をしてみた。
すると社長は呆れた顔をして私を見ていた。
「会社の備品を壊したのは私の落ち度です。けれど、その原因を作ったのは専務です。 なのでその始末書を書きました。」
私は思ったことをそのまま社長へ話した。この結果何と思われようと自分の気持ちをここでは押し殺さない。
もう、捨てられたときの私ではないのだから。
これまで透が何をしてきたのか。きっと、社長は何もご存じないでしょうね。
私や芳樹の存在を。そもそも透との関係だって知らないでしょうね。
何もかも社長に知られればいい。
社長は、自分の息子がしでかしたことを知るがいいわ。



