芳樹の様子を見た後、私はまた仕事へと戻って行った。
商品管理部門のフロアへと向かった。
私の様子を伺うと透は自分のフロアの方へと向かった。
そこへ透の携帯電話に電話が入る。
「ああ、そうか。分かった。」
電話を切ると透はしばらく携帯電話を見つめていた。
そしてため息を吐くと社長室へと向かった。
私は、これから起こることを何も予測していなかった。
透との再会だけでなくこの会社へ入社したこと自体が私の人生を大きく左右していく。
商品管理部門へ戻ると、また、みんなの視線を一斉に浴びてしまう。
今度は何が起こったのか、もう私は驚きやしない。
「今度は何事ですか?」
皆の顔を見て冷静な目でいられた。
「今日から社長秘書課の勤務だっただろ?」
部長がしどろもどろに言葉をかけてきた。
今更何を動揺することがあるのか、部長も肝っ玉のすわらない人だわ。
そんな調子で部長職をやっていけるのかしら? 私が部長を心配したくなるほどだわ。
「あんなの冗談に決まっているでしょう。社長だって単なる気まぐれで遊んだだけですよ。」
そうよ、あんな始末書見て秘書課へ異動させる社長がどこにいるのよ。
たとえ裏で透が手を回したとしても人事をそんなに軽く扱う社長ではないはずよ。
そもそも、透がそんなことするはずないわ。
考えすぎだわ。
「それが、田中君。社長室からお迎えが来ているんだよ!」
そりゃあ部長も驚くわよね。
私も十分驚いた。
これ以上驚くことはないと思っていたのに。意表を突かれてしまった。



