病院へ到着すると加奈子は早く父親に会いたいからか焦りだした。
「加奈子、急がなくてもお義父さんはいなくなったりはしないんだよ。芳樹を抱っこしていくからもう少し落ち着いて。」
駐車場に車を停めると慌てて車から降りた加奈子は、手にしていたバッグを落としたり靴が片方脱げたりして落ち着かない状態だった。
加奈子は少し興奮気味のようだ。
入院中の父親が心配な気持ちは分かるが、この状態では病室へは連れて行けない。
まだ早い時間帯な為、病室で騒いだのでは看護師に追い出されるのがオチだ。
「加奈子、チャイルドシートから芳樹を下ろすからもう少し待っててくれ。それに、取り乱すとお義父さんも心配するよ。」
「分かっているわ。」
「それに、俺達は朝食も食べずにここまで来た。空腹のままでは正常な思考回路は保てないよ。何でもいいから少し口に入れよう。」
直接病院へ来たのは間違いだった。
せめて朝食を済ませて出かけるか、どこか途中で一息ついて病院へくるのだった。
けれど、今、ここを離れることは加奈子が嫌がるだろうし癇癪を起しかねない。
加奈子は思い通りにいかないと時々癇癪を起す。
「そうだ、売店で何か買ってこよう。それに、お義母さんにも何か買って行った方が良くないか?」
「それだったらお母さんと一緒に朝食を食べたいわ。」
「そうだね。それもいいね。」
加奈子の気分も少し落ち着いたようで目の色がいつもの状態に戻っていた。
けれど、義父の姿を見て加奈子が混乱しないようにと思いっきり抱きしめた。
「透?」
「加奈子はこれまでよく頑張ってきたんだ。お義父さんに恥ずかしくない生き方をしてきた。胸を張って会いに行こう。」
「私は芳樹を生んだこと後悔していないわ。それに、透と結婚したことも誇りに思うわ。」
「ありがとう、加奈子。」
俺達三人は今では家族として生活している。
誰よりも想い合う家族だと信じている。



