車に荷物を載せると芳樹をチャイルドシートに乗せた。
車でのお出かけだと完全に思い込んでいる芳樹は大喜びだ。
けれど、芳樹の笑顔があるから俺も加奈子も辛い気持ちがどこかへ吹き飛んでしまう。
悲しい気持ちで両親に会いに行くのは良くない。
加奈子の義父は回復に向かっているのだから。
「透、お父さんの容体はどうなの? 本当は酷い怪我なんでしょう?」
「事故での怪我はそれほどのものではなかったそうだ。ただ、何故か意識が戻らずに数日前に目覚めるまでずっと眠り続けていたそうなんだ。」
「今は?」
「とても元気だよ。3年近く寝たきりだったんだ。これからは体を動かすリハビリをして元の生活に戻れるようにするそうだ。」
「良かった。お父さんが無事で良かった。」
加奈子はやっぱり何度聞いても不安なのだろうか。
何度も同じ質問しては「よかった」を繰り返していた。
きっと、親の反対を押し切って家を出たことを後悔しているのだろう。
だからと、その原因を作ったのは俺だからそのことについて聞こうとはしなかった。
「どこいくの?」
俺達が加奈子の両親の話しばかりしていたからか、芳樹の小さな不安そうな声が聞こえて来た。
「ママのおじいちゃんとおばあちゃんの所に行くんだよ。芳樹はお行儀よく出来るかな?」
「うん! できるよ! じいじとばあば!」
「そうよ、芳樹。ママのじいじとばあばのところへ行くのよ!」
加奈子の精神はかなり不安定な様で芳樹をチャイルドシートごと抱きしめながら涙を流していた。
病院までの道のりはいつもなら遅く感じるのに、今日は随分と早く辿り着いているように感じる。
一緒に車に乗ってくれる人がいて、会話があるとこれだけ早く感じるものなのだろうか?
それとも、刻々と迫る俺の非難される声を聞きたくないあまりそう感じるのか。
どちらにしても、もうすぐ病院へ着いてしまう。
俺は覚悟を決めて加奈子と一緒に義父を見舞わなくてはならない。



