「さあ、さっさと支度を済ませよう。加奈子の両親が待っているぞ。」
そうだ、加奈子の両親はずっと待っていた。
特に、義母は何年も加奈子からの連絡を待っていたのだ。
義父の意識が戻ったのだから一刻も早く加奈子を合わせてやりたい。
けれど、義母のやつれた姿を見た時、加奈子は俺を許す気になれるだろうか?
それとも、加奈子は自分が家族を捨てて家を出たと思ってしまうのだろうか?
そして、両親の姿を見て責任を感じてしまうのだろうか?
俺は加奈子の反応が怖かった。
準備を整えると加奈子と一緒に1階へと降りて行き、一先ず荷物を玄関前へと置くとリビングへと行った。
そこでは親父やお袋と遊ぶ芳樹が居てかなりリビングは賑やかだった。
芳樹の楽しそうな声が廊下まで聞こえていた。
こんな幸せな時間を持てたのも加奈子のお蔭だ。
しかし、加奈子の両親はこれとはかけ離れた生活を送っている。
そう思うと罪悪感で一杯になってしまう。
「芳樹、おいで。」
「パパ!!」
この子を見てどんな反応を示すのだろうか?
加奈子の両親に受け入れられるのか不安だった。
こんなに愛らしい子をこれまで会わせなかった俺はどう償えば良い?
芳樹を抱きしめると胸が苦しくなる。
「透、こっちは心配するな。お前の思ったままやりなさい。後で後悔しないように。」
親父の言葉に励まされた。俺は一人じゃない。
「加奈子さん、会社の事は心配しなくても大丈夫だからね。部長へは私から報告しておく。安心してご両親と会って来なさい。」
「ありがとうございます。」
「加奈子さん、あなたのご両親なのだから遠慮なく傍にいておあげなさい。こちらのことは気にしなくても大丈夫ですからね。」
お袋も加奈子が両親の傍に少しでも長く居られるように気を遣っているようだ。
きっと加奈子にもその気持ちは通じているはずだ。
「じゃあ、そろそろ行こうか。」
芳樹を抱きかかえると加奈子の肩を抱き寄せてリビングを出ていく。
芳樹は朝からどこかへ遊びにいくものだと思い込んでいてとても喜んでいた。



