昨夜は泣き疲れたのか加奈子はまだ目を覚まさない。
無理して起こすのも可哀想で暫くそうっとして置いた。
自ら目を覚ますのを待った方が良いだろうと思い俺は芳樹を連れリビングへと向かった。
その頃になると親父もお袋も起きてきていてリビングでくつろいでいた。
「社長なのに今朝はやけにゆっくりですね。会社はいいのですか?」
「ああ、しばらく専務不在で私も忙しくなるだろうから、朝はのんびりと出かけることにするよ。秘書にもそう伝えてある。」
俺が会社へ出社しないと既に分かっていたのか手回しのいいことだ。
けれど、親父のお蔭で俺は暫く加奈子と一緒に実家の両親の元へと行ける。
「加奈子さんはまだ起きてこないのか? あまりのんびりしていると病院へは遅くなるだろう?」
「芳樹は私が見てますよ。加奈子さんと準備をしてらっしゃい。」
「じゃあ、しばらく芳樹はお願いします。」
お袋達に芳樹の相手を頼むと、俺は寝室へと戻り加奈子の様子を伺おうと思っていた。
すると、ベッドは既に空っぽになり加奈子は洗面所で洗顔をしていることろだった。
洗顔が終わるとタオルで顔を拭きながら俺の顔を睨みつけるように見ていた。
「起きたのなら私を起こしてくれると良かったのに。」
「昨夜あまり眠れていない様に感じたから、今朝は出来るだけ眠らせたかったんだよ。」
「ありがとう。でも、大丈夫よ。ぐっすり眠れたわ。」
加奈子は寝室へ戻ると着替えを始めた。
室内着ではなく外出着へと着替えはじめる加奈子を見て俺はクローゼットから旅行カバンを取り出した。
それを加奈子に見せるとやっと加奈子の顔に笑みが見えた。
「手伝ってくれるの?」
「俺も芳樹も一緒に行くんだ。かなりの荷物になりそうだ。出来るだけ荷物は少なくして必要なものは向こうに行って揃えよう。」
「透、ありがとう。」
加奈子は余程嬉しかったのか俺に抱き着いてきた。



