いつかウェディングベル


突然の声に驚いたが、それより、3年近くも眠り続けていた義父が加奈子の話に目を覚ましたことに俺は夢か幻かと言うほど驚いてしまった。



「とんでもない!素晴らしい妻ですよ。加奈子ほど素晴らしい女性は会ったことがありません。」



俺の声が義父に届いたかと思うと俺は嬉しくて涙で目が潤んでしまった。


そして、僅かに動く義父の手を取りしっかりと握りしめた。



「お義父さん、加奈子さんと勝手に入籍したことを許してください。」



一度は加奈子を捨て悲しませた俺だ。相当恨まれているだろうが、許しをもらえるまでひたすら頭を下げることしかない、今の俺に出来るのは。



「許すも何も加奈子が決めたことなんだろう。それに、お腹の子はどうなった? そろそろ加奈子は出産だろ?」



義父は自分が何年も意識不明のまま眠っていたことを知らなかった。


時は流れすっかりあの時と様子が変わったことにどう説明すればいいのか。


すると、加奈子の義母が目を覚ました義父に気付き慌ててベッドの傍へとやって来た。



「お父さん?!! お父さん、私が分かる? ねえ分かる?」


「お前、随分年取ったな。まるで婆さんみたいじゃないか。」



義父の言葉に俺はどう反応すればいいのか困ってしまった。


義母は義父が意識を取り戻したことに感激し泣きだすと収拾がつかなくなってしまった。


ナースコールを押して看護師と医師を呼び義父が意識を取り戻したことを伝えると病室はかなり慌ただしくなった。


翌日、義父の検査が行われる。もし、検査の結果問題がなければ体力を回復させ日常生活が出来るようリハビリをし退院できるようになるという事だった。


まだまだ退院までには時間がかかるが、それでも、これまでと違い未来に希望が持てる様になった。


一人で苦しんだ義母にも希望が見えてくるとやつれた顔に笑みが浮かぶようになった。


これからの付き添いは退院の為の介護になると悦びが増してきて俺へ向けられる態度も以前よりは柔らかくなっていく。