いつかウェディングベル

「加奈子さんの今の状況は知らせているのよ。企画を担当し大切な立場にあると話したのよ。そしたら、父親のことを知れば加奈子さんが苦しむから仕事に支障来せば加奈子さんの為にならないからって言われたの。」


仕事より親を心配するのは当然だろう?!


そんな当たり前のことを何故させない?


「親と縁を切ってまで自分の人生を選んだのよ。芳樹と生きるために選んだ人生だからその邪魔をしたくないのよ。仕事で重要な立場にあるのは本当でしょう?そんな彼女の重荷になりたくないのよ。」


「それでも知らせるべきだ。」


「知らせないとは言ってないわ。せめて、今の企画が落ち着くまでのことよ。加奈子さんはこの企画にかけているのでしょう?」


加奈子にとって大事な企画だ。


もし、父親のことを知れば企画は手につく筈はない。


きっと、企画を放り投げ母親の許へ戻ってしまうだろう。


企画どころか会社だって辞めてしまうだろう。


俺はそうなっても仕方ないと思うが、加奈子の性格からそんなことは出来ないだろう。


無責任なことの出来ない加奈子は企画を最後までやり遂げようとするはずだ。


それはそれで良心の呵責に苦しめられることになるだろう。


「加奈子さんのお母さんはね、加奈子さんが幸せな生活を送っていることにとても嬉しそうにされていたのよ。」



俺にはそんな様子はなかった。当たり前か、俺は芳樹を妊娠した加奈子を捨てた張本人だから。


恨まれ続けた輩なのだから。


「分かった。企画が終わるまで加奈子には言わずにおくよ。」


本当にそれで良かったのか俺には分からない。


良いも悪いも俺が決めることではないのだけれど、毎日生き生きと仕事に励む加奈子を見ていると、病院で眠る父親のことを言えなくなる。


もう少し仕事に集中させようとさえ思えてしまう。