「ご家族で会社経営をなさっているそうですね。そんな方が加奈子を相手に本気になるはずないのに。」
まるで俺が加奈子を弄んだかの様に言われ、加奈子の母親であっても腹立たしくなった。
あの時、俺は泣く泣く加奈子を諦めたもののとうとう忘れることなど出来なかった。
何度も説得し親の力を借りてしか加奈子の心を動かすことが出来なく情けなく思っているが、
それでも、俺の加奈子への愛情は本物だと伝えたくてここへ来たのだから。
「いいえ、あの時は私も加奈子同様別れたくありませんでした。加奈子の存在を知らなかった父が縁談を持ち出したのですが、それが判ったときは家同士で既に婚約が決まっていたのです。」
今更何を言っても言い訳に過ぎない。
こんな情けない話をしに来たはずじゃなかった。
謝罪はもちろんだが、加奈子は今は幸せに暮らしていると伝えたかったんだ。
「それで、加奈子を捨てたのは父親の所為だと言いたいのですか?」
「いいえ、ただ私も苦しんだことだけは分かって欲しかっただけです。」
「話はそれだけですか?」
加奈子の母親の表情は変わることなく疲れきった顔をしていた。
「すいません、こんな話をしに来たんじゃないんです。」
毎日の様に通いで病院へ付き添いに来ている様子だけれど、仕事と付き添いとでかなり疲れた顔をしている。
このままだと加奈子の母親まで倒れてしまう。
「あの、病院へは毎日来られているんですか?」
「そうですね。この人が何時目を覚ますか分かりませんから。本当ならばとっくの昔に目を覚ましていいはずなのに・・・」
「も・・・申し訳ありません」
俺が原因を作ってしまったことで、加奈子の父親をこんな姿にしてしまったんだ。
そして、収入が殆どない中、切り詰めた生活をしながら医療費を稼ぐために深夜の仕事を続けていると報告書で読んだが、加奈子の母親のあまりにも哀れな姿に俺は言葉に詰まった。



