いつかウェディングベル

病室へ入った俺に気付いた加奈子の母親は軽く会釈をしてくれた。


俺のような者は怒鳴られても会釈をしてもらえるような立場にない。


加奈子の両親をこんな酷い目に遇わせたのは俺なのだから。


俺は深々と頭を下げた。そして、加奈子の父親にも母親にも向ける顔がなくひたすら頭を下げていた。


「申し訳ありませんでした、加奈子にもご両親にもこんな目に遇わせて申し訳ありませんでした。」


お袋とは同じような年齢の筈なのに、苦労と心労とでまるでお袋より更に一廻りは年上かの様に見える。


「もしかして、あなたは?」


「以前、妊娠した加奈子を捨てました。でも、これだけは分かって下さい!加奈子が妊娠していたなんて知らなかったんです。それに、加奈子がシングルマザーになっていたことも、加奈子の父親が事故に遇ったのも何も知らなかったんです。」



加奈子の母親の俺を見つめる瞳がとても熱く怒りを抑え込んでいるのが分かった。


俺を怒鳴りたくて殴りたい気持ちでいっぱいなのだろう。


しかし、母親は唇を噛みしめ拳を握ると俺から視線を反らした。



「今更何をしに来たんですか?」



眠る父親の顔を見つめる悲しげな眼をした母の顔に心が苦しくなった。


俺が加奈子の家族の幸せを奪ってしまったかと思うとやりきれない思いでいっぱいになった。



「加奈子と別れたのには理由がありました。」



「そうね、あなたには親が決めた婚約者がいて加奈子と別れるしかなかった。」



「何故それを?」



俺は初めて会うはずだ。それに、加奈子は親と連絡を取り合っていないのに。


加奈子を捨てたのが俺だと、しかも、婚約者がいたことを知っているはずがない。



「まさか?!」



考えられるのは親父だ!


探偵に調査させたのは親父だし、加奈子の父親が交通事故を起こし意識不明のまま入院していることを俺に教えたのも親父だ。


では、いったい何時親父はあの報告書を受け取ったのだ?


何時からこの事を調べていたんだ?!




「あなたのご両親がいらっしゃいました。少し前ですけど。」



親父だけでなくお袋も一緒に?


なのに何故親父もお袋も俺には何も言わなかったんだ?お袋まで。