親父には啖呵切ったものの加奈子には何と説明すればいいのか、報告書を直接見せる訳にもいかず悩んでしまった。
加奈子の様子を見ようと客間へと行くが、余程疲れたのか目覚めることなく気持ち良さそうにぐっすり眠っている。
時おり寝返りを打つときに何か喋ったような気がしたが、ただの寝言を言っているのだろう。
加奈子の額に触れると少し汗ばんでいるようにも感じると洗面所へと行きフェイスタオルを一枚手に取ると客間へと戻った。
加奈子が目を覚まさないように気を付けながら優しく額を拭いた。
拭くと言うよりはフェイスタオルを額に軽く押し当てる様にし汗を吸わせた。
汗を拭いてやると気持ち良さそうに顔が笑ったように見えた。
楽しい夢を見ているのならその夢から目覚めさせたくない。
親父ではないが、加奈子をこれ以上辛い目にあわせたくないから、今すぐに知らせることに戸惑いもある。だからと、事実を知って此れを隠すことは人の道を外すことになる。
第一、加奈子の母親は一人寂しい思いをしているだろう。
目覚めぬ夫を一人で待っているなんて心細いなんてものじゃないだろう。
加奈子に話す前に病院へ行ってみよう。
そして、出来る限りのことをしよう。今、俺が出来ることをする他何もないのだから。
翌朝、いつも通りの朝を迎えるといつも通りに加奈子は準備をして仕事へと出かける。
俺は今日は出張だからと言って加奈子の父親が入院する病院へと向かった。
病院は車で高速道路を使って1時間程度のところで何時でも行こうと思えば行けないことはない。
病院はかなり大きめで、加奈子の父親は大部屋に眠るように横たわっていた。
長期入院患者の病室らしくどこの部屋も付き添いの姿は少なく患者だけが静かにベッドに横になっていた。
加奈子の父親の隣にはやつれた年配の女性がいた。
この女性は加奈子を三十年ほど年増にしたような顔の人で加奈子の母親だと直ぐに分かった。
加奈子が母親似だとはこれまで知ることはなかった。



