いつかウェディングベル

「まあそう言うことだ。まだ、俺の中で考えているだけで相手には知らせていない。だから、暫く保留のままでいてくれ。」


「分かりました。トップページの撮影については専務にお任せします。話は以上でしょうか?」



想像以上に上司との距離を置こうとするのは立派な心構えだが、何か棘があるように感じるのはなぜだ?


販促課で見る彼女とは少々雰囲気が違うが。


「それから、田中には別件の仕事を頼んでいる。定時より二時間ほど早めに退社させてくれ。」


「別件ですか?ですが、彼女は今仕事が大詰めで抜けられては困ります。他の件でしたら他の社員ではいけませんか?」


妻である加奈子しか同伴できないパーティーに秘書や他の女を連れていく訳にはいかない。


それに、加奈子にも慣れてもらわなければいけないし、妻と紹介したい人達もいる。


「いや、他の者では駄目だ。彼女の必要があるんだよ。」


「退社とは、プライベートなことに社員をご利用なさるつもりではありませんよね?」



蟹江は、まさか、俺が専務の立場を利用して吉富から加奈子を引き離し俺のものにしようと画策していると、そう思っているのか?!


どう見ても蟹江の表情はそう言いたそうだ。



「まさか、セクハラ類いの目で見られているとは思わなかったよ、蟹江君。」


「とんでもない、そこまでは思っていません。ただ、最近、田中さん絡みで人間関係がギクシャクしてますし、専務は明らかに吉富さんに挑戦的ですし、見ているこちらとしては彼女が可哀想なのです。ただでさえ、元恋人に受けたDVに悩まされているのに。」


「DVは出鱈目だ!あれは誰かが適当なことを言って広めた噂に過ぎない!それに、彼女ら母子を捨てたわけでもないんだ!」


つい、蟹江にDVと言われ頭に血が登って怒鳴ってしまった。


何時もの俺らしくないとため息が出でしまい頭を抱え込んだ。


きっと、勘の良い蟹江には今ので気づかれたかもしれないな。


俺が噂のDVの元恋人だと。