いつかウェディングベル


「この企画の総指揮を取るのは私だ。私の指示の元、君には責任を持って行動してもらわなければならない。それから、田中に関しては私の補佐に当たってもらうことにする。遅れているWeb制作については私と田中で対処するが作業に関しては君らに任せる。」



「田中が専務の補佐とはどういう意味なのでしょうか?」



俺と吉富の会話にフロア全体が静まり返り視線を一身に浴びてしまっている。


この状況はあまり良い状態とは言えない。


ますます作業に遅れが出てしまう雰囲気を作っている。


そうなると俺の責任でもあるし加奈子の責任にもなってくる。



「それに関しては後ほど正式に辞令がでる。それまでは私の直属の部下として働いてもらうことになる。だから、吉富君が田中に指示を出すことは出来ない。」



その一言で吉富の顔色は青ざめていく。


俺達の様子を見ていた江崎がデスクワークをしていた手を止め、不敵な笑みを見せ乍ら俺達の近くへと寄って来た。



「吉富さん、田中さんは我々のチームから離脱したと思えばいいでしょう? もともと彼女は子育て中で時間を自由に使えなくて残業させるにも可哀想なのだから。彼女の為にも良い話じゃないんですか?」



江崎は吉富が加奈子にちょっかいを出すのを嫌っているようだが、かと言って自分が加奈子と付き合いたいと思ってはいないようだ。


日頃あれだけ加奈子に対して周りが呆れるほどに好意的なのに、直接加奈子へモーションをかけるようなことはしない。


そんな江崎という男が俺には面白い存在だと感じてしまう。


それとも、それを利用し自分の出世を目論んでいるのか。


どちらにしても、今の江崎は興味を惹く存在には違いない。吉富にあからさまに敵対視し仕事にも熱心ならば俺は文句言うところなどない。



「専務、田中さんの部署はこれまで通りこちらで構わないのですか? 今後の指示は全て専務が出されると思っていいのでしょうか?」



「そういうことだ。」


江崎は思った以上に利口なヤツなのかもしれない。