いつかウェディングベル

少し話し込んでしまうと時間はあっという間に過ぎていく。


今日は得意先との商談はないから加奈子の仕事振りを見ていることが出来る。


それに、久しぶりの出勤に吉富がどうでるのか様子を伺う必要もありそうだ。



「そろそろ戻ろう。皆に怪しまれても困る。異動が決定するまでは俺たちの事は伏せておこう。」


加奈子は自分の処遇に不満そうな顔をしていたが、流石にいつも加奈子の頼みばかりを聞いてはいられない。


いずれ社長夫人になる加奈子を他の社員と区別する必要がある。


加奈子には納得出来ないことも多いだろうが、会社の未来がかかっているんだ。


俺達は自分の希望ばかりを優先させることは出来ないんだよ。


俺が何故あの時、加奈子を泣く泣く捨てたのか、きっと理解できるときも来ると思う。


加奈子もあの時の俺と同じ立場になったんだ。いずれ、加奈子も辛くても自分の意思とは違った選択をするときがやってくる。


俺は生まれながらの柿崎家の人間だ。幼い頃から会社の後継者となるべく育てられた。


それでも加奈子との別れは身を削られるほどに苦しかった。


そんな事態になった時、加奈子は耐えることが出来るのだろうか?





デスクへと戻る加奈子の後ろ姿が弱々しく感じられる。



このままの加奈子ではいつか心が折れてなくなってしまいそうだ。



「加奈子、遅れを取り戻したいから販促課のテーブルに作業が出来るように準備してくれ。」



「何をするつもりなの?」



「早くデータを渡して作業を進めてもらわなければならない。そのためのレイアウトを完成させよう。」



加奈子は進行が遅れないように監督役を任せたい。


これからの加奈子の仕事はそう言う経営者の側になるのだと少しずつ理解してもらわなければならない。