いつかウェディングベル


いつもの江崎とは違う様子に吉冨は顔を歪めていた。



「大まかな集計とアンケート結果は女性陣のお手柄でWebサイトに関しては田中さんが情報課に足しげく通っていた時のままだよね?」


「江崎にしてはまともに仕事をしていたと見えるが、何がいいたいんだ? 今のお前の言葉を聞いていると俺は何もしていないように聞こえる。」


「結果を出せないならそうなると思うよ。吉富さん、大事な企画の時は仕事に集中しましょうよ。」



日頃から役立たずの、人の足を引っ張るだけの男だと過小評価していただけに、江崎の言葉は吉富には苛立つものでしかなかったようだ。


江崎は手に持っていたおにぎりとお茶のペットボトルを一つずつ吉富に渡した。


吉冨はそれには反応せずに黙々と作業を続けた。


「胃に何か入れておかないと午後の仕事に障るよ。それに、俺達がどんなに頑張ったところで専務には勝てないよ。」


「お前に何が分かる?!」



吉富を無視し江崎は鼻歌を歌いながら昼休憩へと入った様だ。


これまで見下していた江崎に見透かされた様に感じた吉冨は怒りが込み上げてきたのか机を叩いていた。



「田中さんは俺達には高嶺の花なんだよ。吉富さん、いつまでも専務と張り合うと身を滅ぼすよ。」


江崎の呟きなど吉富には聞こえない。


同じ社員として、これまで一緒に仕事をした仲間として江崎なりのアドバイスをしたつもりなのだろうが、吉富には伝わることはなかった。


意地を張る吉冨はライバルからの施しを素直に受け入れることはしなかった。


昼休みが終わってデスクへ戻った江崎は、吉富に渡したはずのおにぎりとお茶が自分のデスクに置かれているのに気づいた。



「素直じゃないね。」



江崎は吉富を見て笑っていた。


そして、加奈子もデスクへ戻ると早速江崎が加奈子に絡んでいた。


「田中さーん、昼休みに会えなくて寂しかったよ!」


「はいはい、江崎さんは俺達と準備始めましょうね。」



加奈子に甘えようとする江崎を宥めるのは毎度の事ながら岩下だ。


そんなやり取りを横目で見ていた吉冨は更に苛ついていた。