いつかウェディングベル

その日の午前の仕事が終わり昼休み時間になると、各フロアでは昼食を取りに食堂へ行くものもあれば会社の外へと食べに行くものもいる。



俺は加奈子の体調が心配になり商品管理部門へと足を運んでみたが、そこでは先輩や同僚らと楽しく話をしながらどこかへと出かけていく加奈子を見つけた。




「そんなに気になりますか? 専務。」



俺にそんなセリフを堂々と言えるのは吉富くらいなものだろう。



いきなり人の背後から忍び寄ってくるような態度が俺には気に入らないが、俺は正式に加奈子の夫になり今は加奈子は完全に俺の女になった。



俺は加奈子を守る為にも吉富のようなストーカーまがいな男を加奈子から排除しなければならない。



それも加奈子に危害を加えない様に注意を払いながら。



けれど、吉富は自分の行動がストーカーまがいな行為だと気付いていないだろう。



きっと、単なる求愛行動だとでも思っているのだろう。




「君は大事な昼休み時間にまだここにいてもいいのか? しっかり食事を取って午後からの仕事に備えてくれよ。」



「田中の様子を見にきたのでしょう? 彼女は問題無く良くやってくれていますよ。息子の芳樹君がいるのにどうやって休養出来たのか私には分かりませんが専務はご存じなんでしょう?」



「何のことだ?」



相も変わらず加奈子の話題になると食って掛かる吉富は面倒な存在だとつくづく解雇したくなる。



この際加奈子は俺と結婚したと教えてやろうかと思った。



それくらいこの男は俺は嫌いだし鬱陶しすぎる。それに危険な匂いがしてくるのは俺の気のせいなのか?



「田中が心配になって田中のアパートへ行きましたが蛻の殻でしたし、専務のマンションにまた匿われているのではとお邪魔したのですが、全く人がいるような気配はありませんでした。」



この男はとことん危ない野郎だと恐ろしくなった。



吉富は会社を休んだ加奈子がどこで誰と過ごしているのかを自分の目で確認しようとしていたのだ。