いつかウェディングベル

「田中が課長に?そしたら、私は部長に昇格でしょうか?」


「いや、そうなると私の部長はどうなるのでしょう? まさかもっと上の席を用意してくださっているのでは?」



いやはや、役職に長年甘んじているとこの様か。



これはこの部署だけの問題ではなく全ての部署において一度調べたほうが良さそうだ。



「田中の昇進のおかげで見えない部分の掃除が出来そうだ。じゃ、また後で。」




加奈子は社長命令で課長の辞令を出したとしてもきっと断るだろう。



これまで加奈子が無事に過ごせたのもこの商品管理部門の皆の協力があるからこそ。だから、俺としては灸をすえるだけで本気で部内の改革をしようなんて思っていない。



けれど、時にはこんなプレッシャーも必要だろう。




フロアから離れる時それとなくみんなの様子を伺っていると加奈子の周りには皆が集まっていた。



加奈子の元気な姿を見れて安心したと言う顔をする同僚たちは有難い存在だ。



俺からも感謝したいが、まだ、今は言えない。



下手な動きをすれば吉富がどう動くのか予測がつかないからだ。



「田中さん、もう体の方は大丈夫なの?」



「私も心配で心配で田中さんがいないとどうしていいのか分かんなくなるわ。」



「坂田、お前は自分の心配をしているだけだろう。」




蟹江にはすっかり迷惑をかけてしまった。



加奈子が抜けたことでその分仕事量が増えていたはずなのに、文句ひとつ言わず加奈子の体を心配してくれていた。



同僚の坂田も本当は加奈子の心配をしてくれているのだろうが、加奈子がいなかったことで本来坂田の仕事ではなかった部分まで任されてしまい不安にさせたのだろう。



そんな坂田の気持ちを重々知っていながらも、少々口の悪い物言いだが岩下もみんなを心配して辛口な言葉になっているのだろう。



加奈子がいない間に吉富にプレッシャーをかけ部長や課長にも必ず毎日日報を事細かに書かせ提出させていた。



それを読む限り加奈子が休んでいた分を皆が協力し合ってよく補い合って作業を進めてくれていた。



とても有難いことだと感謝したくなるほどだった。