いつかウェディングベル

「加奈子さん、もうあなたは私達家族の一員よ。あなたは私の娘よ。こらからは自分一人で悩んだり苦しんだりしないで私達を頼ってね。」



お袋がそんな台詞を言うとは思わなかった。



それは加奈子も同じだったようで目に涙を浮かべて感激しているように思えた。



「私、芳樹を生んだのに、透に何も告げずに勝手に生んだのに、なのに・・・」



「何を言うの。あんなに可愛い孫を私達に見せてくれるなんて素晴らしいことよ。とても感謝してるわ。なのに一人で苦労させてしまってごめんなさいね。これからは貴方は一人じゃないのよ。私達家族がいるのだから。」



お袋の言葉は加奈子だけでなく俺の心にも響いたとても温かい言葉だった。


加奈子は涙が止まらなく泣き続けると、お袋は加奈子をしっかりと抱きしめた。



「貴方は私の家族よ」



その言葉に加奈子はさらに泣きじゃくった。



これまで加奈子がどんなに辛く悲しい日々を送ってきたのか俺は初めて感じ取った。



こんな加奈子を知らずに「愛している」だの「結婚しよう」だのそんな言葉を伝えたところで加奈子が俺の言葉を信用するはずはなかった。


また、俺に縁談が持ち上がれば俺に捨てられると思うのは当然だ。



「さあ、芳樹が待っているわ。お家へ帰りましょう。」


お袋が加奈子を抱きかかえるようにベッドから降ろしてくれた。



「お袋、加奈子は俺が連れて行くよ。」



「あら、透なんて当てにできないわ。女は女同士行きましょう。」



そう言ってお袋はとても優しい瞳で加奈子を見てくれた。



そんなお袋に加奈子はとても嬉しそうに微笑み返していた。



まるで嫁と姑が仲良く並んで歩いているようで見ている俺としても微笑ましくて笑みがこぼれてしまう。



少し足元が覚束ない加奈子を支えるのにはお袋には少々無理があるようだった。



だからと二人の間に割り込むとせっかくの雰囲気が台無しになると思い、お袋とは反対側から加奈子を支えながら駐車場まで歩いて行った。