いつかウェディングベル

これまで気力だけで生きてきた加奈子の前に俺が現れただけで加奈子が寝込むと言うのは、俺としてはあまり歓迎できる状態ではない。



「ですが、若干貧血が見受けられますしお話しではこれまで少々無謀な生活もされていたようですから、この際しっかり体を休めた方がよいでしょう。」



「投薬などの治療は?」



「しっかり食べてしっかり休めば元の元気な体に戻りますよ。」



「それだけですか?」



「今日はこのままお帰りくださって構いません。」



医師はそんなこと言うが加奈子は熱を出したんだぞ。これはどう説明するんだ?



「加奈子は風邪じゃないんですか?熱が」



「先ほど診ましたらもう熱はありませんよ。平熱でした。少し精神的なものがあるのではないでしょうか?」



まるで子どもの知恵熱みたいなあんな症状か?



どちらにしても加奈子に特別な病気がなくて安心した。



俺の方が体から力が抜けてきて倒れてしまいそうだ。




今日はお袋が一緒で心強いよ。きっと、俺一人だとこんな対応は出来なかっただろう。



外来患者用のベッドに横になる加奈子の所へ行くとお袋が心配そうに俺の顔を見た。



早くお袋や加奈子にも安心してもらえるように診察の結果をそのまま伝えた。



加奈子は自分が大きな病気をしていないことに喜んでいたが、お袋は涙を流して加奈子に抱きつきながら喜びを表していた。



それはあまりにも過剰で胡散臭い芝居じみた表現だろうと言いたくもなったが、お袋は俺に捨てられた加奈子の辛い日々を思い、ここまで苦労させたことに涙が止まらないと言う。



「償いもあるけれど、それ以上に加奈子と幸せになりたいんだ。加奈子も芳樹も幸せな暮らしをさせたいし、これ以上の苦労をさせたくないんだ。」



お袋の前でも誓うよ。


俺は加奈子のために生きていく決心がついているんだ。


加奈子にもそれを知って欲しい。