まるで泣き落としみたいになってしまったが、加奈子が検査を受けてくれると約束をしてくれた。
俺はそれだけでも喜んでいた。加奈子が自分の体を大事にしてくれるだけでいい。
これまでのような無茶をせず、これからは俺を頼ってくれるとそれだけで嬉しい。
芳樹は病院へつれていくわけには行かず家政婦の増田に子守を頼み、俺とお袋とで加奈子を病院へと連れて行った。
親父は会社での吉富の様子を調べると言っていたが、何かするつもりなのか?
余計なことをして吉富を刺激しない方がいい。
吉富には、加奈子を諦めるよう分からせる必要はあるが、これまでの加奈子への手厚いサポートを考えればあまり極端な拒絶のような態度は出来ない。
会社では温厚で優しい人物のように見える吉富でも、彼だって人間なんだ逆上することだってある。
これまで自分が加奈子を支えてきたと思い込んでいるはずのところに、急に専務の俺が興味本意に近付いてきたと思っているはずだ。
だから、加奈子を俺に取られまいと必死に挑んでくるのが、俺にとっては鬱陶しい存在になるんだ。
俺には吉富はストーカーに感じるが、吉富にとっては俺は専務と言う肩書きを利用してセクハラでもしようとする輩に見えるだろう。
確かに、加奈子がまだ俺を許していないのに加奈子を抱いたのだから、そう取られても仕方のないことはした。
だからと、もうしてしまったことはどうにもならない。
それよりは、これからが大事だ。
加奈子がもう少し心を開いてくれれば先への望みもでてくるし、芳樹も加奈子も精神的にも肉体的にも追い詰められた生活を続ける必要はない。
そんな生活から解放させたい。
そのためには今はゆっくりこれまで苦労した分の疲れを取ることからはじめて欲しい。
「柿崎さん」
簡単な検査を終え医師に呼ばれた俺は別室へと案内された。
「検査の結果どうですか?どこか悪いところでもありますか?」
「今のところ特に目立った異常は見当たりません。」
医師の言葉に俺はホッと胸を撫で下ろした。



