いつかウェディングベル

「奥様、客間の加奈子様の様子を見に行ったら、かなり息苦しそうにされているので熱を測りましたら、かなり高熱を出されています。」


彼女は長年我が家で働いてくれている通いの家政婦の増田だ。


子育てもベテランで、自身にも3人の子どもがいて今は皆独立し孫までいる人だ。


とても信用できて頼れる人だ。


ただ、あることを除いて。



「まぁ、坊っちゃん! 具合の悪いご自分の奥様をほったらかしにして何てことです! 知らないお屋敷に連れてこられてどんなに心細いか!さっさと奥様の所へ行っておあげなさい!」


早口で罵られると言い返す言葉はない。それに増田が言うことに一理ある。



だが、まだ加奈子は妻ではないのだから加奈子をこれ以上神経質にさせて嫌われたくない。



「加奈子はまだ妻じゃない。」


「あんな可愛い坊っちゃんを作っておいて知らん顔するつもりじゃないでしょうね?」


「まさか!俺は結婚するつもりだけど加奈子に迷いがあるんだよ。とにかく、俺達のことは放っておいてくれ。」


「そんな訳には参りませんよ!」



増田は俺の小さい頃からここで働いているだけに、もう一人の母親的存在で、下手すればお袋より厄介な人物だ。



「増田さん、お医者様に連絡を取ってください。透、増田さんの言う通りよ。今日は彼女のそばに着いていてやりなさい。」


「そんな訳には行きませんよ。今日は大事な会議があるんです。」


「そんなものお前がいなくても社長の私がいれば充分なんだよ。だから、透は着いていてやりなさい。」


お袋も親父も協力的なのは助かるが、加奈子は完全に俺を許している状態にないのだからあまりおせっかいを焼かれるとまとまるものもまとまらなくなる。


だから、世話はしても余計なことは喋って欲しくない。


だけど、どうやらお袋も増田も俺の気持ちなど通じる様な二人じゃなさそうだ。