「芳樹、パパのお家へ行くのよ。」
「パパの? おうち?」
「ああ、そうだ。さあ、今からパパの家へ行くよ。」
もし、万が一、吉富がここへ来れば面倒なことになる。
だから、今すぐにでもここを引き払った方がいい。
「加奈子、荷物はこれだけでいいのかい?」
「ええ、最低限のものがあれば十分よ。」
「足りないものは買えばいい。じゃあ、行こう。」
加奈子は少し息が荒くなっていた。熱が出ているのだろうか? 頬も少し赤っぽい。
俺は芳樹を抱き抱え手に荷物を持ちながら加奈子を出来るだけ支えながら駐車場まで歩いて行った。
「ごめんなさい。面倒かけて」
「ここへ戻ってきたのが間違いだったんだよ。」
これをきっかけに加奈子が俺との生活を真剣に考えてくれると嬉しいのだが、肝心な加奈子はまだ戸惑いで俺との生活を受け入れることは難しいかもしれない。
それでもいい。時間をかけてゆっくり加奈子が納得できるようになればいい。
車に乗った頃になると加奈子は更に息が荒くなり熱っぽい顔になる。
「加奈子、大丈夫か?」
「う・・・うん。体がだるい・・・」
これまで一人で頑張って来た加奈子だ。少々の具合の悪さなどは気合でカバーして来ただろう。
けれど、これからは加奈子一人ではないのだから、しっかり俺に甘えて欲しいしもっと頼って欲しい。
運転する俺の横ではすっかり眠ってしまった加奈子の寝顔が見える。
俺は、ここ数日は仕事を休める状態にないし、もし、俺のいない間に吉富が俺のマンションへやって来ないとも限らない。
だから、俺は加奈子をマンションではなく実家の方へと連れて行くことに決めた。
交差点の赤信号で待たされる間に俺は実家へと電話を入れ、加奈子と芳樹を連れて行くことを話した。
俺からの連絡を受けた実家では親父もお袋も大歓迎のようで孫がやって来る悦びに浮かれていたようだ。



