いつかウェディングベル

きっと加奈子はこれまで一人で芳樹を育てるのに相当な気力と体力が必要だったと思う。その原動力は多分俺への憎しみだ。



俺を憎むことで湧き出る未知なる力が加奈子の生きる気力につながっていたと思う。



そんな加奈子のこれまでの生活を思えば、俺との同居は簡単なものではないだろう。



「今日は加奈子のアパートへ送るよ。俺はいつまでも待つつもりだから、一緒に暮らすのは急がない。加奈子が良いと思うまでは待つよ。ただ、二人のことが心配だから時々は加奈子の部屋に泊まってもいいかい?」



加奈子は一度軽く頷いた。芳樹の父親としての行動ならば認めるということなのだろう。



俺のマンションで過ごした時の様に加奈子を欲しがってしまうと、せっかく歩み寄ることが出来た俺たちの間がまた気まずくなってしまう。



ここは無理せずに気長に構えるしかない。



だけど、加奈子がここまで俺を受け入れてくれるようになったんだ。今はまだこれ以上望んではいけない。これ以上求めてもいけない。



加奈子を信じて待っていればいい。



きっと何時かは俺の心の内を理解してくれるだろう。



「仕事は辛くないかい? 今、忙しいのは知ってるが無理はしてほしくない。人員が足りないのなら補充する。」



「大丈夫よ。皆で協力してやってるの。販促課全員で頑張っているのよ。最後まで私達を見守っていて。」



「そうか・・・ それで、吉富はどんな様子だ? まだ君に言い寄ったりしているのか?」



勤務時間中まで加奈子を縛り付けることは出来ないし、恋敵の吉富の動きを封じたいからと加奈子を監視することも出来ない。



芳樹という息子を儲けていても俺達の関係を公にしていない以上、加奈子を独占することが出来ないし、吉富相手にも上司として以外の言葉を突きつけることが出来ない。



俺は加奈子の恋人として、いや、加奈子の夫として吉富と対峙したいんだ。



焦ってはいけないと心に誓いながらも加奈子相手では理性がどこまで保てるか正直自信がない。



吉富が行動に出るのではないかと勘ぐれば勘ぐるほどに苛立ちが増していく。


何年も待つと言いながら俺の弱い心に心底呆れ果てるよ。



だけど、加奈子を悲しませたくないから俺は努力するよ。