親父が社長室から出て行くとしばらく沈黙が続いた。
「親父が言ったことは気にしないで欲しい。」
「あなたが言わせたのでしょ?」
「俺は自分の恋路を親に頼んだりはしない。加奈子が俺を信じられない気持ちも許せない気持ちも今の俺には理解できると思ってるよ。」
加奈子は俺を睨みつけると、思わず俺を叩こうと手を振りかざした。
けれど、芳樹が俺に抱きかかえられているのを見て思いとどまったようだ。
流石に、子どもの前では暴力は振るえないと思ったのだろう。
振りかざした手は拳を握りしめ震えていた。
きっと、話に聞いていた加奈子のこれまでの生活や、ほんの数日一緒に過ごした二人の生活を見ただけでは、俺の想像もつかないほどの苦しさを味わったのだろう。
それを簡単な言葉一つで片づけてしまおうなんて虫が良すぎるよな。
加奈子が俺を受け入れられないのもなんとなく身に染みて分ってきたような気がする。
「あなたに何が分るというの? 何を理解したというの?」
「そうだよな。俺の身勝手さに加奈子は苦労してきたんだ。だけど、俺は、これから一生、加奈子と芳樹の為に生きていくと誓うよ。
だから、たとえ加奈子が俺との結婚を断り続けても死ぬまでプロポーズするし、加奈子も芳樹も俺が守っていきたい。運よく親父は俺達の結婚を認めてくれた。だから、加奈子が受け入れてくれるまで何年でも待つつもりだ。」
ああ、そうだ。俺は加奈子以外の女とは結婚しないし芳樹だけが俺の息子だ。
今のこの関係をこれ以上悪化させたくない。
そして、これ以上加奈子を苦しめたくない。
「ずっと結婚せずに何年も私と芳樹を見守るつもりなの? 好きな女が出来たら途中でまた私達を捨てるの?」
「約束する。俺は加奈子以外の女を愛することはないよ。」
「信じられないわ」
「神に誓うよ」
結婚式を挙げなくても俺は神に誓いを立て、一生加奈子と芳樹の為に生きていく。



