「お疲れ様。加奈子さん、仕事は頑張っているようだね。部長からも良い報告を聞いているよ。」
加奈子はドア正面に立っていた俺にだけ気を取られ、同じ部屋に社長である親父がいることに気付いていなかったようだ。親父に話しかけられ驚いたのか顔が少し引き攣っていた。
けれど、今の加奈子は仕事が充実しているからか担当する企画が思ったより評判が良かったからなのか、以前とは少し違って力強く自信を持って親父の前で微笑んでいた。
「社長、とんでもないです。今回の企画は少々行き過ぎたところがあり申し訳ありません。」
「いや、インパクトがあって社内では好評のようだよ。各支店長からも面白い企画だと発案者について質問を受けているところだ。」
「恐れ入ります」
「それで、今回の企画が成功した暁には君には社よりそれなりの褒美を与えようと思う。その前に、私個人からも君にはお礼を考えているのだがね。どうだろうか。受けてもらえないだろうか?」
これまで親父は一社員相手に褒美を与えたことなど無かった。それも入社して年数のない平社員などには。何か企んでいるのか?
加奈子も受ける気は無いようで頭を左右に振っていた。
「企画を担当しただけで褒美を頂くようなことはしていません。それに、まだ企画は此れからですし結果は出ていません。第一社長個人からも頂く理由はありません。」
「では、芳樹の祖父からではどうだね?」
親父は何を考えているんだ? 俺達への罪滅ぼしでもすると言うのか?
今更そんなことをしても遅すぎる。加奈子は俺がした仕打ちを許せるはずはない。
だから、再会後、昔のように俺達の間で熱く燃え上がったとしても俺のプロポーズを受けやしないのだから。
「透の嫁になってくれないだろうか?」
「何を考えているんだ?! 加奈子には俺が」
「私の話を聞くんだ!」
思いがけない親父の台詞に加奈子はかなり動揺していたようだか、俺にはそれ以上の衝撃だ。
これではまるで俺のプロポーズを断った加奈子のことを親父に泣きついているようではないか?!



