いつかウェディングベル

「一つ確認しておきたいことがある。」


珍しく親父が改まって俺の顔を見ていた。今更何を確認すると言うのか、今の俺にはそれほど興味はなかった。


「何故あの時加奈子さんがいたのにお前は婚約の話を受けたのだ?」


今頃何を言うんだ?! 


俺には恋人がいて婚約など考えられなかったのに、一方的に話を進めたのは親父じゃないか?!



「俺が婚約の話を聞かされた時は既に結納の話が決まっていた。だから、俺は親父に話した。俺には加奈子がいると。交際している女がいると。」



「あの時は仕方がなかったんだ。加奈子さんの存在を知ったのは結納を交わした後だった。後戻りは出来なかったんだ。」



「だったら今更俺が何故受けたくもない婚約話を無理強いされたか聞くことはないだろう!! そのお蔭で俺は芳樹との大事な時間を奪われただけじゃく加奈子まで失ってしまったんだ!」



今更こんな話を蒸し返してもどうにもなりはしないんだ。


事実、あの時は、俺も後戻りは不可能だと考えて加奈子を切り捨ててしまったのだから。


まさか、芳樹を妊娠しているとも知らずにあんな酷い仕打ちを加奈子にしてしまった。


俺は愛してもいない婚約者との未来の為に加奈子と芳樹を捨てたんだ。




加奈子が俺を憎みたくなる気持ちも分かる。



だけど、もう婚約は破談にしたんだ。


加奈子に俺の気持ちも分かってもらいたいんだ。



なのに、



どうすればいいのか、今の俺には分からないんだ。



「透、辛い目に遭わせてしまった。すまなかった。」



初めて見せた親父の辛そうな顔。


そして、初めて見た親父が俺に頭を下げている姿。


きっと、親父も良かれと思ってやったことなのだろう。


会社の為にと政略結婚は多いことだ。親父も会社の為に俺を利用し婚姻による企業取引を成功させたかったのだろう。


俺も加奈子も会社の犠牲になっただけだ。だからと許されることではないが、かといって今更どうにもできないことも分かっている。