「さあ、彼女のことはもう大丈夫だ。君は直ぐに仕事を始めてくれ。社内応募は締め切ったんだろう? 女の心配している暇はない。」
上司の命令には逆らえない吉富さんは、明らかに助けを求めた相手を間違えてしまったと思ったようだ。
拳を握りしめると少し震わせていたが、仕事が絡んでいる以上、専務相手に逆らえないと分かると吉富さんは持ち場へと戻って行った。
「加奈子、無理はしないでくれよ。それに、仕事が終わったら送っていく。芳樹と待っていてくれ。」
透にこんなセリフを言われたら嫌とは言えない。
それに、吉富さんのエスカレートしていくアプローチから逃げるのには丁度いいのかも。
私って最低な女だわ。
吉富さんにその気がないのに思わせぶりなことをしておいて、透との再会後はまた昔の様な気持ちが湧き上がって透に頼ろうとしている。
私は本当はどうなりたいんだろう?
だけど、 今は、そんなこと考えている暇はないわ。仕事に集中しなきゃね。
透に相談もなしにこんな無茶な企画を勝手に始めたのだから。
透に直接関わることだから、この企画は絶対に成功させてみる。
社内だけでなく全国相手でもお客様からの反応を貰えるように頑張るわ。
「蟹江さん、集計はどうなっています?」
「社内応募を早めに締め切ったのは正解だったわ。専務とのツーショットの効果は覿面でね。凄いわよ。集計するのに時間が掛かりそうなの。それに、出来れば皆で目を通したいと思っているのよ。」
「わが社の商品を売り出すのに有難い反応ですね。」
「ええ、嬉しい悲鳴になりそうだわ。だから、また暫くは残業になるのかしら?」
そんな皮肉を言いながらも嬉しそうに微笑んでくれる蟹江さん。
社内応募で集まったアンケートは手書き応募とネット応募とでかなりの数になっていた。
これを一つ一つ読み上げるのにどれくらいの時間を要することだろう。
残業することは気にならないが、芳樹の事を考えると少し胸が痛い。



