私はその日、透のマンションでの最後の夜を過ごした。
私の体調がまだ完全ではないからと透は私を一人にはしてくれなかった。
手は出さないからと一緒のベッドで眠った。
透に抱きしめられるとやっぱり胸が痛む。
私はこの人が忘れられないのだと思い知らされてしまう。だけど、あの時のようなあの辛い思いを二度としたくない。
同じことを繰り返してはダメだと自分に言い聞かすのが精いっぱいになっている。
透と一緒に過ごせば過ごすほどにあの辛さがかき消されてしまう。
私は愚かな女だと日に日に思い知らされていくのが怖い。
そんな私の気持ちなど知る由もない透と吉富さんが会社で顔を合わせる。
この二人は今仕事上では同じメンバーとして企画に関わっている。
そんな二人が私が原因で仕事に影響が出なければ良いのだけれど。それは自惚れかもしれないけれど、でも、私を自惚れさてくれる透がいるのだと私は思っている。
そんな透から目が離せない私が許せない。
「おはようございます。専務、今朝、一緒に会社へ来られたようですが、それは、どういう意味なのでしょう?」
「吉富君、彼女がDVの元彼氏に強引に関係を迫られているような話を君に聞かされたからね。それで、彼女の安全の為に私が通勤は同行することにしたんだよ。
これで、君は何の心配なく仕事に専念できるだろう?」
専務の立場を最大限に活かして吉富さんに有無を言わせないようにしている透。
吉富さんは相手が専務なだけに迂闊な事は言えないし、そもそも、透にDVの元彼氏の相談をしてしまった以上は透の言葉に反論はできないだろう。
吉富さんは相談した相手を間違ったのかと言わんばかりの顔をしている。
透と吉富さんの張りつめたこの息苦しい雰囲気を何とかしたい。



