「この条件を受け入れられないと言うのなら俺も芳樹を手放す気はないよ。芳樹は加奈子だけの子じゃないんだ。俺にだって可愛い息子なんだよ。加奈子には勝手な言い分に聞こえるかもしれない。でも離れたくないんだよ。」
家と会社の往復を透の車で移動させてもらうのは嬉しい申し出なのだけど、これを素直に喜んで受け入れれば透は勘違いしてしまうだろう。
でも、確かに車の移動は助かる。芳樹もいるし芳樹の保育施設へ持っていく荷物もある。
早朝から交通機関を使って小さな子を連れて荷物を抱え会社まで移動するのは辛い。
「分かったわ。車で移動するわ。でも、それは吉富さんにはなんていうつもりなの?」
「俺は会社では専務だよ。権力というものを使うさ。今の企画が終わるまでは幼子のいる加奈子を手助けするのも俺の務めだとね。吉富君には絶対に俺たちの領域には踏み込ませない。」
「吉富さんはまるでスッポンのような人よ。」
「大丈夫、俺に任せておけばいいよ。万が一って言う時は、勿論加奈子のアパートの部屋へも上がらせてもらうから。そのつもりで。」
かなり聞き分けの良い透になったのだけれど。本当に、会社と自宅アパートまでの往復だけを同じ時間を共有するだけで透は納得できたのかしら?
どうしても腑に落ちないのだけれども・・・・・
でも、その有難い条件さえ受け入れればアパートへ戻ることができる。
だったら、この程度の条件は飲むわ。
芳樹は透の息子だから、親権の奪い合いになれば私は到底勝てることは出来ないだろう。
裁判にでもなればあっという間に透に芳樹を取られてしまう。
ならば、この条件を受け入れるのが利口というものだろう。
「透の条件を飲むわ。明日、仕事が終わったらアパートへ帰してくれる?」
「ああ、いいよ。俺が責任持ってアパートまで送るよ。」
透との商談が成立したようなものだ。



