いつかウェディングベル


今日、透が作ってくれたこの食事を食べたら私は芳樹とここを出ていくつもりだ。


私の中ではもう決めたことだから悔いは残らない。


残らないというのは嘘になるけど、そうするしか仕方がない。




「美味しそうな匂いがしてきたわ」


「加奈子、大丈夫なのか?! あまり顔色良くなかったけど、今は大丈夫そうだな。」


「ママ!! だっこ! だっこして!」


「こら、芳樹。ママは病気なんだ。ママに抱っこはダメだろ。」


「えーー!!」


芳樹を抱っこするくらい大丈夫だけど、少し不安が残っていた私は台所のダイニングテーブルの椅子に座って芳樹に両手を広げた。


「おいで、芳樹。これなら大丈夫よ。」


「わーい! ママのだっこだ!」


眩暈は完全に治っていないようだけれど、椅子に座れば芳樹を抱っこするくらいは何ともない。



「グラタンを作ったの?」


「このホワイトソースの箱に書いてある通りに作ったんだ。これなら俺でも出来たよ。 今オーブンで焼いているからもう少し待っててくれよ。」


私の思った通り。グラタンならば透でも一人で作れると思ってその材料を買いに行かせたのだ。


今度は焦がさずに無事食事らしいことが出来そうだ。



「芳樹、ママにリンゴジュースを渡せるかな? さっき一緒に買って来たよね?」


「リンゴジュース? あの小さいハコの?」


「そうだよ。リンゴの絵が描いてあっただろう?」


「うん。持ってくる!」


リビングに置いていたのか芳樹は急いでリビングへと走って行った。



「加奈子、少し話をしたいんだけど。出来れば芳樹が眠った後にでも。」


芳樹が寝た後に?!


それだと私はこのマンションを出ていけなくなる。


ここを出ていくと心づもりしていたのだから、今、この予定を変更すればまたここに居たいと思ってしまう。


ここから離れられなくなる。