あの地震から数年、彼は大人になり、就職し、結婚した。今日は妻の出産予定日だ。仕事を早く切り上げ、病院に向かう電車の中で彼は、あいつを見た。黒山羊の頭をした巨漢だ。巨漢は驚く彼に向かって、低く響く声で告げる。「お前の息子は死産だ。救いたいか?代償にお前の両目を差し出すならば助けてやろう」
彼は迷うことなく返答した。「喜んで差し出すよ。こうすることが、父さんから全てを奪った僕が支払う代償だからな」そして彼は、流れる景色を脳に焼き付けた。