「…私の彼氏に、気安く話しかけるんじゃないわよッ!」
普段怒らず、温厚な彼女だけど。
それはあくまで僕の前だけ。
他の虫―――主に僕に近づく女―――には、こうして、怒りを露わにする。
…本当、彼女はとても良い彼女だ。
僕が大事にし、愛でるべき存在だ。
―――確信している。
「聞いているの?
気安く話しかけないで。
どうされたいの?
鉄分たっぷり、釘入りジュースを飲まされたいの?
ナイフをブッ刺した板に、押し付けられたいの?
何千ページもある本を、山積みにされたいの?
ガムテープを何重にも口に貼って、海に沈められたいの?
薬を飲ませて気を失わせて、深い地中に埋められたいの?
狭い部屋の中で、毒を持った生き物たちに囲まれたいの?
……あなたも、地獄に堕ちタイノ?」
「…雪愛、その辺で良いよ」
僕はギュッと後ろから彼女を抱きしめた。
雪愛は嬉しそうに甘い声を出し、僕の前へ回した腕に、自分の爪を食い込ませるほど握った。
痛いなんて思わない。
爪が食い込むほど雪愛が僕を抱きしめてくれる。
それだけ僕への思いが強いってこと。
雪愛の僕への愛を、痛いなんて、重いなんて思わない。
感じるのは、
言葉では言い表せないほどの、
―――強い強い、愛、だ。


