だけど、自分を殺そうとしている人間が、本当に憎い存在なはず。

他に恨むべき人物がいるだろうか?

稲生は考えるも、目の前にいる人物しか恨めなかった。





「…はぁ、キミって馬鹿なんだね」




わざとらしく溜息をついた貴魅は、グイッと乱暴に再び稲生の髪の毛を引っ張り、稲生が吐き出した嘔吐物のついていない頬を、思い切り殴りつけた。

稲生は今度は頭の後ろから、ベシャッと音を立てて倒れこんだ。

起き上がろうとした瞬間、右手に走るような痛みを覚えた。

思わず呻くと、稲生の右手をカレが踏みつけていた。





「キミが本来恨むべき人物は、僕の雪愛を監禁した、過去のキミ自身でしょ?

キミが雪愛を監禁しなければ、こんなに痛い思いはしなかっただろうし、死ぬはずもなかった。
最愛の家族とも別れることはなかったんだヨ?

キミが雪愛を監禁したから、キミは死ぬんだよ?

本当に恨むべき存在は、僕ではなく、過去の自分だろう?」





カレは淡々と、まるでニュースキャスターのように、彼の罪を言っていく。

ゆっくり、身体の痛みと共に、精神も壊していく。

―――ソレこそが、貴魅が雪愛が稲生に監禁されたと知った、あの日から考えていた、復讐だった。





3年間、道具を集め、廃倉庫という良い場所も借りることが出来た。

全ては、愛している存在を閉じ込めた、目の前の人物に復讐するために。













ダカラ、

終ワラナイ。













「こんな簡単な拷問だけで終わると思わないでよネ?
…簡単に、キミを死なせは、しないカラ……」









悪魔は、怖い。

だけど本当に怖いのは、悪魔なのか?




本当に怖いのは、










愛ニ狂ッタ、

ニンゲン、ダ。