僕は、忌まわしきあの場所―――地下室へ足を進めた。
カビくさい、じめっとした空間が続いている。
やっぱりいつ来ても、ここは嫌いだ。
僕の心の中で、幼い頃から育ってきた、闇よりも黒いドロドロとした感情が、育って行きそうになるから。
雪愛と出会って、ゆっくりだけど、愛を育んできたんだ。
今更、僕を闇へ堕とさないでほしい。
扉の前に立つと、黒さが増したような気がした。
耳に、頭に響く、鳴りやまない金属音。
この音も、この空間も、この奥にいるお父様も、この場所に決めたお母様も。
全部全部、
憎クテ、タマラナイ……。
僕は自分のポケットに、地下室へ降りる前に仕込んでおいたアレを、ポケットの上から握りしめた。
…僕にはもう、躊躇いなんてない。
だって僕はもう、すでに、園田愛恵を殺した、殺人者だ。
今更、この奥にいるお父様を殺すのに、躊躇いなんてない。
だけど、すぐさま手を離した。
駄目だ。
僕は自分の欲望のまま、罪は犯さない。
もしお父様が、雪愛へ手を出したのなら、それこそ躊躇いなんて微塵もないけれど。
雪愛は、僕の家庭事情も、お父様とお母様の間の“愛”の存在も、知らない。


