バゲット慕情



「彼は、わたしとは時間の合わない人でした。

完全に夜型で。

わたしのバイトの後に一緒に食事をしようと待ち合わせていても、一時間も二時間も現れなかった。

寝ていたからって。

一時上がりのシフトのときですよ。

食べずに待ってたら、わたし、苛々して、どうしようもなくて。

そういうことばかりで」


 園田は身動き一つせずに華の横顔を見つめていた。

園田は華に声をかけたいのだ、と美智子は見て取った。

華を慰めたいのだろうか。

あるいは、華の話を止めたいのだろうか。


「そんな男と、どうして会っていたの?」


「会いたいと望まれると、拒めなかったから」


「情があったってこと?」


 華は、笑顔で、ゆるりとうなずいた。


「わたし、彼が初めてだったんです。

蔑ろにされても、いつかまた大事にしてもらえるはず、と期待していました」


 美智子は呆れ笑いを漏らした。


「女を大事にできる男なら、最初からやってるでしょう。

でも、まあ、華ちゃんの気持ちもわかるわ。

あたしにも経験があるもの」