バゲット慕情



「たぶん、甘えていただけだと思います。

目には見えない心の傷を誰かに知ってほしくて、心の代わりに体を傷付けたんでしょうね」


「そんな、他人事みたいに」


「あんまり覚えていないんです。

何を思って傷を付けたのか。

痛みも覚えていません」


 ここにもあります、と華はセーターの胸元に人差し指を走らせた。

そのついでに、髪を耳に引っかける。

その耳には、外周に沿って三つのピアスが突き刺さっている。


「その傷、あたしは気付かなかったわ。

でも、園田くんは気付いたのね」


「園田さんに指摘されて、初めて、自分の甘えが恥ずかしくなりました。

腕を切ることをやめるために、彼氏と別れようと決めました」


 美智子は身を乗り出した。


「聞いてみたかったのよ、本当は。

どんな恋だったのかしら?」