バゲット慕情



「華ちゃんの大学、卒業式は今月末よね。

袴を着るんでしょ」


「いえ。就職する友達は袴ですけど、わたしは進学なので、スーツで。

形だけの通過儀礼ですから」


「つまらないわね。

晴れ着の機会なんて、人生で何度もないわよ」


 華は、かすかな笑顔をつくるだけだった。

ワインレッドのハイネックセーターに黒いジーンズ、男物のようなデザインのペンダントは、美智子の老婆心を刺激する。

仕事中も、華はいつも地味なモノトーンだった。

なんて勿体ないこと。

その白い肌には鮮やかな色が映えるはずだ。

大胆で女らしいドレスを着せたら、この子、どれだけ変わるかしら。


 大学を卒業する華は、今、二十二だ。

あたしが子を産んでいたら、華より一回りも年が多かった。

二十七の園田よりも大きな子が、あたしにいたかもしれないのだ。


 時の迷路に足を踏み入れかけ、美智子は息をつき、辛気くさい妄想を払い飛ばした。