バゲット慕情



「園田くん、来なさい。

今、いいでしょ」


 美智子が椅子に掛け、華が遠慮がちに美智子の向かいに座り、エプロンのままの園田はさらに遠慮した様子で、華の隣の席に着いた。

ベレー帽を外し、膝の上でいじり回す。


 同じ空間で働いてきた者同士であるのに、同じテーブルを囲むのはひどく珍妙な気がした。

収まりの悪さを隠すために、美智子は、さっさと食べ始めた。


 と、華が表のほうへ目を向けた。


「あっ。雨、降ってきましたね」


 レインレインの東側と南側は全面がガラス張りになっているから、天気が崩れると、店の雰囲気それ自体が空の色に沈む。

今朝は風がないようで、細かな雨は空から垂直に降ってくる。

冷たい紗のかかる景色は、見る間に、白いガラス色に曇った。

雨音によって、しっとりと隔離された空間。

音楽がかかっていないと、ファンヒーターと工房のオーブンが、こんなにもうるさい。