バゲット慕情



 普段の朝食は、美智子も園田も、自分の好きなときに、前日の売れ残りなどを適当につまむ。

お互い勝手にやるほうが気楽だし、都合がよい。


 美智子は、父が死んでから、家庭料理というものを作らなくなった。

ときおり自分のためにこしらえるのも、レインレインで客に提供するのと大差ないサンドウィッチだ。

ただし、ちょっとばかり贅沢な具材を使う。


 出入りの卸業者が隔月で置いていく食品の通信販売のカタログは、美智子のひそかな楽しみとなっている。

最近のお気に入りは、デンマーク産のパンチェッタだ。

豚バラ肉の生ハムである。

このパンチェッタを、噛むほどに味わいの広がるライ麦パンで、たっぷりのレタスと一緒に挟み込む。


 業務用ミネストローネを温め、コーヒーを淹れ直す。

四人掛けのテーブルに三人ぶんのカトラリーをセットしていると、華が気付いて、率先して料理を運んだ。