バゲット慕情



 帰り道、むくんだ足で割烹へと向かいながら、美智子は園田の人生を思った。

あの正確な手で女を愛で、自分の遺伝子を持つ子をつくりたいと思わないのだろうか。

いつまでレインレインに勤める気でいるのか。

華に触発され、近いうちに巣立っていくのではないか。


 巣立つという表現に、我ながら苦笑した。

園田は、レインレインを家とも学舎とも故郷とも思ってはいないだろう。

そんなべたついて生ぬるい感傷は、美智子は嫌いだ。


 華だってそうだ。

自分の夢のために、あっさりと店を退いていける。

その程度の距離が、結局、誰にとっても損がない。