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午後六時に閉店し、十五分ほどで掃除と戸締まりをすませ、園田と午後番のアルバイトスタッフを帰らせると、美智子は決まって、なじみの割烹へ向かう。
京風料理を瀟洒な器に盛り付けて出すこの割烹は、学生が自転車を連ねて走り回る通りから、一筋入った場所にある。
高級住宅地のとば口だ。
客には、大学関係者と見える風貌の男性が多い。
美智子はカウンターに着く。
燗をつけた酒を、徳利に一本。
食事は店主に任せてある。
今日は、つきだしに菜の花の辛子和えが出された。
「いいわね、大将。
あたし、菜の花が好きなのよ」



