華がレインレインに食事をしに来たことは、過去に一度だけある。
男と一緒だった。
男は、華より十ほども年上に見えた。
彼氏かと尋ねると、華はにこりともせずにうなずいた。
男も硬い顔をして、美智子とも華とも目を合わせようとしなかった。
別れ話だ、と美智子は察した。
園田は工房に引っ込んだまま、レインレインのほうへ出てこなかった。
美智子はこのとき、園田が華に惚れているという確信を強めた。
数日後の朝、華は長かった髪をばっさりと切ってアルバイトに現れた。
どうしたのか、と野暮な質問が美智子の口を突いた。
華はため息とともに答えた。
彼氏と別れました。
もう一生、伸ばしません。
美智子は、働く華の後ろ姿に目をやった。
華はカウンターを離れ、木製の本棚を乾拭きしている。
斜め後ろから見ると、短い髪に隠された耳のてっぺんあたりに複数のピアスが付けられていることがわかる。
いつのころからか穿たれたピアスは、まじめな華が唯一見せる反抗的態度だった。
華は本当は、決して、美智子に懐いてなどいない。



