バゲット慕情



 雇った当初、感情を全く表に出そうとしない田舎出の少女に、美智子はずいぶんと苛々させられた。

仕事を教えるときも、きつい口調で指示をするときも、小言を食らわせているときさえ、華は温度のない声で、はいと一言。

生気が乏しい。

ただし、まじめではある。

家事の手伝いをしつけていたのか、作業に関しては最初から筋がよかった。


「まあ、華ちゃんが二年生に上がるころには、もうこの子は卒業まで辞めないだろうって気がしたわ。

ねえ、園田くん」


 ちょうど工房から出てきた園田に、美智子は話を振った。

園田は、山葡萄ゼリーと青林檎ゼリーとコーヒーゼリーがそれぞれに仕込まれた三つのタッパーを、ミニキッチンの冷蔵庫にしまった。