バゲット慕情



 美智子は家を出て、相手のアパートへ転がり込んだ。

夫となった男は、ある夜から突然、美智子に暴力をふるうようになった。

胎児は美智子の体の中で死んだ。


 誰かに愛されたかった。

だから浮気をした。

壊れた生活に疲れた女の腐った色気は、ろくな男を呼び寄せなかった。

少しでもましな男に巡り会うため、美智子は不倫の恋を重ねた。


 美智子が正気づいたのは数年後だった。

四度目の流産で死にかけた拍子に、不意に現実が見えた。

自分が愛と呼ぶものは、肉欲を掛金とする賭博でしかない、と。


 どこで勘違いしてしまったのだろう。

男がほしかったわけじゃない。

あいつらは、女が腹を見せれば牙をむく浅ましい生き物だ。

赤ん坊だって、もうほしいとも思わない。

あのちっちゃな命はいつも、あたしが「せめてあんたと生きていきたい」と願うたびに、勝手にこの腹の中で死んでいくんだ。


 あたしがほしいのは、ちっぽけな幸せだった。