あと1時間…

優はこの後に及んで 迷う訳には行かない。


「康介」

「ん?」

「なんか、別れずらくなる…早めに搭乗口行くわ…」

「わかった…」

康介は、優の提案を受け入れた。


「行くか?あと1時間くらいだ」


「うん」


10年前 兄を送り出したように…


「頑張れよ」
「うん」

康介は右手を出す。

「康介も」


「俺はだいじょぶだょ」
「また、手紙かく」

「待ってるよ」

「じゃあ…あの2人にもヨロシク」

優は出国ゲートに並ぶ。
1人ずつ まえに進む…
「優っ!デッキで、見てる」

康介は怒鳴った。

「……よ」

優が何か 言っていたが、聞こえなかった…

優の姿が 康介の視界から 完全に消えた。


康介は、しばらくタバコの吸えるカフェに戻ると、優の飛行機の出発を待った。

優は、出国手続きを済ませると、中の免税品店でタバコを買う。


彼女もまた 約1時間 タバコの吸えるカフェに入る。


10分前… 搭乗口から まだ 機内に入れないでいた…



康介は、彼女の乗る予定の飛行機の見えるデッキに出る。

夏の熱い風と 飛行機のエンジンの熱気…


飛行機から、搭乗口ゲートが外された。


飛行機はゆっくりと 方向転換をすると、滑走路へ向かう。


康介は、あの飛行機のどのあたりに 優が乗っているのかわからないが。

飛行機を目で追っていた。

もう少し 彼女を 強くひきとめるべきでなかったのか。


酷い後悔の念が彼を襲っていたが もう どうすることもできない。


ただ 飛び立とうとしている飛行機を 見つめるしか出来なかった


飛行機は直線の滑走路に向かう。


秒読み開始だ。


康介は、両手をグッと握り締めた。


飛行機が、飛び上がる。

彼はしばらく下をむいたまま、頭をあげられないでいた。


気付くと 涙がこぼれていた…