…ガサッ…
「…んんっ…っハアッ」
彼女の腰掛けた花壇の左後方から、物音と呻き声がした…。

「…」

しばらく 彼女は 動けずに居た。もしかしたら 今 自分は狙われて居るのかもしれない…

1分がとても長く感じる。呻き声と共にかすかに「ヘルプ…」
と声が漏れていた。
彼女は急いで花壇の後を探す。

そこには血だらけで、若い男が横向きにうずくまっていた。

彼女は、近くに住む幼馴染みの町医者の長谷川康介に電話を入れた。

そして、思いだしたように、マネージャーの彼にも「部屋に入った」と嘘をついた。彼にはなせば更にメンドクサイ事になると判断した。

康介は10分くらいで彼女のマンションへ到着した。
「ねぇ、彼…」
「わかった」
なにがわかったのか、康介はその場で脈拍を測り、眼球を見る。
「死なないよ。とりあえず運ぼう。ドアを開けてくれ」

康介の診療室は、眠らない街 に似合った感じの おしゃれとは程遠い、築30年は経つのじゃないかというビルの一階にある…。

訳ありの患者。真夜中の急患…。

なぜ彼がこんな街の町医者にこだわりをもって 生活しているのか…

康介はよく
「俺は適当な人間だからな。こういう適当なのが似合ってる」
長谷川家は代々続く 医者の家系で、愛恵と同世代には3人の息子がいた。小さい頃から よく4人で遊んでいた。

愛恵たちは東京生まれではなかった。東京まで程近い近郊の都市部が地元だったが、愛恵は15歳から、康介は大学から その他の兄弟も外へ出た者 あとを継いだ者… 大人になった今もあうのは 康介だけだった。

康介は血だらけの衣類を切りだし、適切な処置を素早く施す。30分ほどで、終了した。