「あ。はい。先程は藤倉の失礼を…」
ディレクターの男は、彼の顔面に手の平を出すと、彼の言葉を止めた。 「いやいや。失礼だなんて思ってないよ。ははは。不思議な人だ。僕もね、わざわざ来てる理由は…彼女のファンだから。笑うだろ?」
ディレクターは少し 照れながら タバコに火をつけた。

「普通ね。あれくらいの女優様になっちゃうと、なんか勘違いしてる女がオオインダョ。笑。」

彼女は、それが 全く ないんだ。
だから、惹かれる。
…と 彼は続けた。

何はともあれ マネージャーの彼も ホッと一安心だった。

「また頼むよ。今度はもうひとこと多くね。藤倉さんにヨロシク」

堺は、駆け足で駐車場に戻る。

愛恵の姿は駐車場にも車の中にもなかった。

「なにやってんだあの人は…」

堺のそんな思いと裏腹に、愛恵はスターバックスのカップを飲みながら 車へと戻ってきた。
「なにやってるんですかっっ」

「スタバ。はい。堺くんにも。キャラメルカプチーノ」
悪びれた様子もなく カップを彼に渡す。

「愛恵さん…」
「怒ってんの?」

愛恵はボンネットによりかかって、床に座り込む 彼に微笑んだ。

「怒ってません。心配です」

「怒ってる。その言い方。ハハハ。おみやげ買ってきたのに…」
「あなたの身に何かあったら、どうするんですか…僕は、責任とれません」
「…」
「すいません。なんてゆうか…」
「…あー。うん。だいじょぶ。今の無言は怒りじゃないから。そうね。アナタの立場も私も考えなきゃね…」

「行きましょうか…」
「うん。」
二人は車に乗り込む。
「ねぇ。エステ。間に合うかな」