「…で、そもそも藤倉さんが女優として…」
退屈な質問が 続く。

女優 藤倉 愛恵 フジクラ マナエ。

32歳。

最近 取材で最も多いのが、30代を美しく、自分らしく過ごす。自力した女の特集。

デビューは、15歳。

高校と入学と共にこの世界に入った。

きっかけは、スカウト。
演技 俳優への憧れも、芸能界への憧れも、全く無かった。

ただひとつ。

この世界へ飛び込んだ理由は…

好きな人への 反発心だった…。

素直になれなかった自分に… 15年以上の時を経て、悔やむ事になろうとは…

人生に 「~たら」「~れば」は、ないのだと。
生きて行くのに、この世界は とても彼女の為にはなっていた。

華やかだが。

ふとした瞬間に 美しい花は散る…。

再び 同じ美しさを 手にすることは 簡単ではない。


彼女は 運良く 15年という年月を ここで生抜いてこれたのは 本当に 運 なのだと。最初の舞台に立った日から 一度も 満足感に満たされることがなかった。


彼女の為に 用意された リラックス出来る空間…。大好きなコーヒーも用意されている。

今の 藤倉愛恵に 不可能 という3文字は、値しない。

望めば、何でも手にすることが出来た。

「私はホントはこの仕事向いてないなぁと、思うんです」
愛恵はコーヒーを一口飲むと、

「ごめんなさい。あとはそちらのライターの方におまかせします。好きなように書いて下さい」

愛恵は、嫌味な感じも 奢り高ぶる感じもなく 穏やかに、席を立った。
あまりにも、様になりすぎていて その場の誰もが、そのまま部屋から出て行く 彼女の後姿に 釘付けだった。

この後に 大変な思いをするのは マネージャーの彼。

彼はこの後 雑誌社側と 適切なコンタクトをとり 丁著に愛恵の行動を平謝りし、一応の了承を得るのに、少しだけ苦労した。
「堺さんでしたっけ?」雑誌社のディレクターらしき人物。普通 いち女優のインタビューごときで この立場の人間は出てこない。