彼は 何をしているのだろう。毎日 康介と共に 何をしているのだろう。
愛恵の中で 日に日に ジョーの存在が気になるようになっていった。

こんな気持ちになっているのは 久し振りの感情だった。

「…ですよね」
堺の質問に 愛恵は
「…あ。うん。ごめん。もう一回言ってくれる?」
堺は
「もう今日愛恵さん、聞き返すの5回目っすよ?だいじょぶっすか?」
愛恵は、動揺をうまく 隠せているか…

だいじょぶ。

私は 女優だ。

「ごめんごめん。ちょっと考えてることがあって…だいじょぶょ」

「来月は早めですが夏休みとってしまいます。秋の連ドラと年末のドラマと来年の大河の打ち合せは、これから細く入りますから、しばらく休みらしい休みとれませんから…」
「もう何回も聞いてる…」
今日の予定を聞く。
今日はもうないとのことだ。愛恵のスケジュールは、忙しい時期は分刻み…
もう少し余裕をもって 仕事を組んで貰いたい…
愛恵は、堺に康介の診療所で降ろしてくれと頼む。

「康介~」
診察室の壊れ気味のドアを開ける。
交換したらいいのに。 彼は、このレトロ感がいいんだといった。

「こんにちは」
中には康介でなく、ジョーが、長椅子に座りTVを見ていた。
「あれ…。康介は?」
「電話が来て急患だと行ってる」
「そう…」
愛恵も長椅子に座ると お土産のケーキをジョーに渡した。
「ありがとうございます。」

シーンと… 空気が 音をたてる…

「なにしてるの?」
「TVを見ていたよ。愛恵さんがでてる」
昼過ぎにやる 連ドラの再放送だ。

「愛恵さん、綺麗だね。TVより本物のほうが綺麗だよ」

ジョーにお世辞の概念がないだけに 愛恵はものすごく恥ずかしくなる。
「愛恵さんは、いつからアクトレス?」
「15」
「ワォ。すごいね」
続けてジョーは
「今は愛恵さんは何歳?」
愛恵は笑って
「ジョー。日本で女の人に年を聞くと、フアックっていわれるわよ」
「あー。ソーリー。ごめんなさい」
ジョーはほんとに申し訳なさそうに言った。